技能実習・特定技能で7割超が法令違反
――厚労省が2024年の監督結果を公表、労務管理体制の不備が深刻化
厚生労働省は2024年10月26日、労働基準監督署などが立ち入り監督を行った事業場のうち、外国人技能実習生および特定技能外国人を雇用する事業場の違反状況を公表しました。
結果は深刻で、技能実習関係では73.2%(8,310事業場)、特定技能関係では**76.4%(4,395事業場)**に法令違反が確認されました。
違反の主な内容
最も多かったのは、いずれの区分でも
- 「使用する機械等の安全基準」違反(技能実習25.0%、特定技能24.0%)
- 「割増賃金の未払い」違反(技能実習15.6%、特定技能17.2%)
- 「健康診断後の医師意見聴取義務」違反(技能実習14.9%、特定技能16.7%)
など、安全衛生・賃金・健康管理に関する基本的な義務違反が多数を占めています。
業種別では、建設業、食料品製造業、機械金属製造業、農畜産業、繊維・衣服製造業など、いわゆる「人手不足業種」が中心でした。
背景にある構造的問題
技能実習や特定技能制度は、表向きには「人材育成」や「特定分野での労働力確保」を目的としていますが、現場では依然として人件費の安価な労働力確保手段として運用されている側面があります。
監督結果からも、企業側の法令理解不足・教育体制の未整備・監理団体のチェック機能の形骸化が浮き彫りになりました。
また、労基署と入管庁の相互通報も進んでおり、
- 労基署から入管庁への通報:339件
- 入管庁から労基署への通報:73件
と、行政横断的な監視体制が強化されています。
強制労働や人権侵害の疑いがある事案については、合同で監督・調査を実施するケースも見られました。
実務上のリスクと対応ポイント
本件は、単なる行政指導にとどまらず、今後は送検・企業名公表につながる可能性が高まっている点に注意が必要です。
送検件数は技能実習16件、特定技能7件にとどまるものの、厚労省は「度重なる指導にも従わない重大・悪質事案には厳正に対処」と明言しています。
企業としては次のような対応が求められます:
- 外国人雇用に関する就業規則・賃金体系の整備
- 労働安全衛生法・労基法に基づくリスクアセスメント・安全教育の実施
- 監理団体や登録支援機関との契約内容・運用状況の定期的見直し
- トラブル発生時の迅速な弁護士・社労士への相談体制の構築
弁護士からのコメント
外国人労働力を受け入れる制度は、国の人材政策の柱の一つですが、制度の信頼性は現場での適正運用によって支えられるものです。
「知らなかった」「指導を受けてから対応すればよい」という姿勢では、今後は企業の社会的信用を失うリスクが高まります。
特に特定技能制度は、今後の制度拡大が見込まれる分野でもあるため、採用前の体制整備と法令遵守の仕組みづくりが不可欠です。


