「技能実習」に代わる新制度「育成就労」 転籍制限期間の案が提示
――建設など8分野で2年、宿泊など9分野で1年に設定へ
出入国在留管理庁などは2025年10月17日、外国人労働者受け入れの新制度「育成就労」に関し、転籍(職場変更)に関する制限期間の具体案を有識者会議に提示しました。
提案によると、対象となる全17分野のうち、建設など8分野は2年間、宿泊など9分野は1年間の転籍制限期間を設ける方向です。政府は2027年の制度開始を目指しており、12月に正式決定する「分野別運用方針」に盛り込む見通しです。
「技能実習」から「育成就労」へ――制度転換の背景
現行の「技能実習制度」は、名目上は「国際貢献」を目的とする人材育成制度ですが、実際には労働力確保の色合いが強く、
- 転籍(職場変更)の原則禁止、
- 長時間労働・低賃金、
- 暴力・ハラスメント等の人権侵害
といった問題が長年にわたり指摘されてきました。
このような制度構造が、外国人労働者の自由なキャリア形成を妨げているとの批判を受け、政府は技能実習制度を廃止し、新たに「育成就労制度」へ移行する方針を決定しています。
転籍制限期間の意義と課題
「育成就労」では、一定の就労期間を経たのち、外国人本人の意思により転籍を認める制度設計が予定されています。
これは、労働移動の自由を部分的に保障するものであり、国際的にも歓迎される方向性です。
もっとも、今回提示された「転籍制限期間」――すなわち
- 建設などの8分野で2年
- 宿泊などの9分野で1年
という区分は、労働者保護と産業維持のバランスを取るための政治的妥協でもあります。
とくに建設・製造など長期育成を要する分野では、企業側が人材流出を懸念しており、一定期間の転籍制限を設けることで受け入れ基盤を維持する狙いがあります。
実務への影響
企業・監理団体・登録支援機関にとって、転籍制度の導入は大きな転換点です。
今後は、
- 外国人本人に対する労働契約内容・転籍条件の明示義務、
- 監理団体による職場変更支援の新たな枠組み、
- 受け入れ企業間の連携・人材移動ルールの整備
など、実務面での準備が不可欠となります。
また、制度の運用次第では、**転籍をめぐるトラブル(損害賠償・契約解除など)**が発生する可能性もあり、今後は労働契約法や民法上の解釈論も注目されます。
弁護士からのコメント
「育成就労」は、単なる名称変更ではなく、労働法制の適正化と外国人の人権保護を両立させる制度改革です。
もっとも、転籍制限期間が長すぎれば、旧制度と実質的に変わらないとの批判もあり得ます。
今後の制度設計では、本人の意思尊重・受け入れ企業の育成責任・行政監督の強化の三点をどこまで実現できるかが鍵となるでしょう。
企業としては、2027年の制度開始に向け、
- 現行の技能実習生の受け入れ体制を見直し、
- 育成計画・契約条項・転籍手続を法令適合的に整備することが求められます。


